🧍♂️「片足だけのむくみ」はよくあること?いいえ、注意が必要です
「夕方になると片方の足だけがむくんでくる」 「片方の足のふくらはぎが赤く腫れてきた」 「ずっと座りっぱなしで、片足だけ血行が悪い気がする…」
このような「片側のむくみ」のお悩みは、当院でも多くの患者様から伺います。両足のむくみはの下肢筋力低下や塩分過多によっておこることもありますが、片足だけのむくみは重大な病気のサインであることも多いため、決して見逃せません。
「足のむくみが気になる方へ|考えられる原因と見逃せない病気とは?」はこちらをご覧ください。
今回の記事では、片側のむくみをきっかけに受診され、思わぬ病気が発見された患者様の症例をご紹介します。どのケースも一見軽い足の腫れでしたが、精査の結果、早期に対応することで改善が図れた例ばかりです。 片足のむくみは体からのSOSのサインかもしれませんので、違和感があれば早めに受診しましょう。長時間の飛行機移動後、片側の脚が急に腫れ、歩くと痛みを感じるようになった50代男性のケースです。
この患者様は「先週、海外出張で長時間飛行機を利用して以来、左脚のふくらはぎが腫れて熱っぽく、歩くと痛む」と訴え来院されました。左脚全体にむくみと圧痛、皮膚の発赤が認められ、深部静脈血栓症(DVT)が疑われました。血液検査でDダイマーが上昇しており、下肢血管エコー(超音波)検査で左膝裏~ふくらはぎの静脈に血栓を確認し、DVTと診断しました。
ふくらはぎの中にあるヒラメ静脈の血栓像
DVTは片方の脚全体が突然赤く腫れる典型的な症状がみられる病気で、エコノミークラス症候群とも呼ばれます。放置すると血栓が肺へ飛んで肺血栓塞栓症を起こし、命にかかわる危険があります。この患者様は血液を固まりにくくする直接経口抗凝固薬(DOAC)による抗凝固療法を行ったところ、むくみと痛みは徐々に改善しました。
また、特発性のDVTでは見逃しがちな原因として悪性腫瘍の関与が指摘されているため、念のため腹部CTや腫瘍マーカー検査などを行いましたが、明らかな癌所見は認めませんでした。
片側の脚が急に腫れて痛む場合はDVTの可能性を疑います。長時間の飛行機移動の後、長期にわたる安静を要した後などの病歴があればさらに可能性が高まります。 2016年の熊本地震では、長時間の車中泊を余儀なくされた人々の中で、DVTからの肺血栓塞栓症が多発し、死亡例も報告されました。
DVTはがんも危険因子とされ、原因不明の場合は追加検査が必要なこともあります(がん関連血栓症)。放置すると肺血栓塞栓症という命に係わる重篤な合併症を起こすため、早期受診・早期治療が何より重要です。
60代の女性。3年前に子宮体がんの手術を受けており、その際に骨盤リンパ節郭清も行われました。術後は定期通院を継続されていましたが、ここ半年ほどで「右足が夕方になるとむくんで重たい」「靴が履きづらくなってきた」と感じるようになり、当院を受診されました。
痛みはなく、皮膚の色調変化や傷もありませんでしたが、「夜になってもむくみが引かず、硬く張っている感じがする」との訴えがありました。
がんの再発や深部静脈血栓症などを考えましたが、血栓ができたときに上昇するDダイマーの値は正常範囲であり、下肢静脈超音波検査でも血栓を疑う所見は認めませんでした。また、CTも施行しましたが、がんの再発や新しいがんを疑う所見などは認めませんでした。
精密検査目的に紹介した先の病院でリンパシンチグラフィ検査を行ったところ、右下肢においてリンパ流の遅延と停滞を確認し、リンパ浮腫の診断に至りました。
続発性リンパ浮腫は、がんの治療において、手術でリンパ節を取り除いた場合や、放射線治療によってリンパの流れが停滞することで生じます。これは乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの治療による後遺症の一つです。発症時期には個人差があり、手術後1年くらいで発症することもあれば、10年以上経過してから発症することもあります。
リンパ浮腫は、がんの治療を受けた全ての患者さんが発症するわけではありませんが、一度発症すると治りにくいという特徴があります。そのため、本人が病気と関連づけていないことが多いです。
子宮がんや卵巣がんの手術をしたことがある方で、特に片足の「だるさ」「むくみ」が数週間以上続く場合には、早めの評価と対処が重要です。進行すると皮膚が硬くなり、感染(蜂窩織炎)のリスクも高まります。
60代男性。糖尿病があり以前より足趾に白癬(水虫)がありましたが、最近になって右足首付近に小さな傷ができていました。2日前からその傷周囲が赤く腫れて熱感・痛みが出現し、38℃の発熱もあり、当院を受診されました。
診察では右足背~足首にかけて赤みと腫れ、熱感、触れると痛みを伴う炎症所見がありました。血液検査では白血球数とCRPが上昇し、蜂窩織炎(皮下組織の細菌感染)と診断しました。採血検査と下肢静脈超音波検査でDVTは否定できたため、今回のむくみは感染によるものと判断しました。
重症化予防のため点滴抗生物質を開始し、足を挙上して安静を指導したところ、数日で腫れと熱感は改善していきました。その後は経口の抗生物質に移行し、最終的には改善を得ることができました。
蜂窩織炎では局所が赤く腫れ熱を持ち、痛みを伴うのが特徴です。ブドウ球菌などの細菌が傷や皮膚から侵入して起こりやすく、糖尿病などで免疫力が低いと重症化しやすくなります。
深爪した時の傷、水虫でできた傷、家の中で足をぶつけてできた傷などから菌が侵入することもあります。適切な抗菌薬治療でほとんどは治癒しますが、遅れると膿瘍形成や壊疽となり、下肢の切断のリスクもあるため、早めの受診・治療が重要です。
蜂窩織炎では、片側の脚の一部が急に赤く腫れて痛みと熱感が出て、高熱を伴うこともあります。特に糖尿病や足に傷がある方は要注意です。早期に抗菌薬を投与すればほとんどは改善しますが、膿がたまった場合は切開排膿が必要になることもあります。症状が強い場合は放置せず、すぐに診察を受けましょう。
70代女性。数か月前から左脚のむくみを自覚していましたが、急激な痛みはなく「体重が減っているのに脚だけむくむ」とのことで来院されました。
腹部超音波検査では大きな異常は見えなかったものの、念のため造影CTを行ったところ、骨盤内に大きな腫瘍性病変を認めました。左総腸骨静脈が腫瘍に圧迫されており、巨大卵巣腫瘍と診断しました。このため左脚のリンパ・静脈流が障害され、むくみが生じていたのです。この方は総合病院の産婦人科に紹介し、手術の方針となりました。
腹部・骨盤内の腫瘍が静脈やリンパの流れを妨げると、静脈うっ滞を起こし、片方の足だけが腫れることがあります。体重減少や食欲不振、貧血など他の全身症状を伴う場合は悪性疾患を考慮し、CT検査などの精査が必要です。また、むくみ以外に黄疸(皮膚や白目の黄変)がみられる場合は肝臓がんや肝硬変の可能性もあります。
監修: Myクリニック本多内科医院 院長 本多洋介