心不全の薬物治療「ファンタスティック4」とは?4つの柱の薬を専門医がやさしく解説
「心不全の薬、本当に全部必要なの?」と感じている方へ
心不全と診断されると、ある日を境にお薬の数が一気に増えてしまうことがあります。
診察室でも、
・「この心不全 薬物治療、本当に全部必要なのでしょうか?」
・「心不全 ファンタスティック4って書いてある記事を見ましたが、よく分かりません」
というご質問をよくいただきます。
この記事は、横浜市神奈川区で内科・循環器内科クリニックを開き、心不全外来と在宅・訪問診療に日々たずさわっている総合内科専門医・循環器内科専門医が執筆しています。
難しい専門用語をできるだけかみ砕いて、「なぜ薬が増えるのか」「ファンタスティック4とは何か」「心不全の薬とどう付き合っていけばいいのか」を、患者さんとご家族の目線でお話しします。
「年のせい」と思っていた息切れが、実は心不全だった…?
心不全とは「心臓の元気が足りなくなった状態」
心不全とは、心臓のポンプとしての力が弱くなり、全身へ十分な血液を送り出せなくなった状態の総称です。
とは言っても年を取ると心臓の動きが弱くなるわけではありません。心筋梗塞や長年の高血圧、弁膜症、不整脈、心筋症など原因はさまざまですが、「一度よくなったから終わり」ではなく、悪化と改善をくり返しやすい慢性疾患だと考えられています。
見逃されやすい心不全の初期症状
外来でお話を聞いていると、こんな経過の方が少なくありません。
・以前は平気だった坂道や階段で、最近すぐ息が上がる
・夕方になると足首がむくみ、靴下の跡がくっきりつく
・数日のうちに体重が2〜3kg増えた
・横になると息苦しく、枕を高くしないと眠れない
・夜中に苦しくて目が覚め、座ってしばらくしないと落ち着かない

「年のせいかな」「運動不足かな」と我慢しているうちに、心不全がじわじわ進んでいた、ということもあります。
こうした症状やサインが続くときは、早めに内科・循環器内科を受診していただきたいタイミングです。
診断のために行う主な検査
心不全が疑われたときには、次のような検査を組み合わせて診断します。
・心電図:脈の乱れや、心筋梗塞の痕跡、負担のかかり方を確認します。
・胸部レントゲン:心臓の大きさ、肺に水がたまっていないか(肺うっ血・胸水)を調べます。
・心エコー(心臓超音波)検査:心臓の動きとポンプの力(左室駆出率)、弁の状態などを詳しく評価し、「どのタイプの心不全か」を判断する大切な検査です。

・血液検査(BNP/NT-proBNPなど):心臓が苦しいと分泌されるホルモンの値を測り、心不全の有無や重症度の目安にします。
これらで「心不全かどうか」「どの程度進んでいるか」を見きわめたうえで、心不全 薬物治療の方針を決めていきます。
⇒「心不全の診断はどう行う?症状・検査・基準を、循環器内科専門医が解説します」の記事もご覧ください
その場しのぎの治療ではなく、「長く元気に暮らすための治療」へ
昔の心不全治療と、最新の心不全治療との違い
少し前までの心不全治療は、利尿薬で余分な水を抜いてむくみや息切れを抑える、強心剤と呼ばれる薬で一時的に心臓を頑張って動かすという「その場をしのぐ治療」が中心でした。
しかし、症状を抑えるだけでは寿命や再入院のリスクは十分に改善しないことが、数多くの研究から分かってきました。
現在のガイドラインでは、慢性心不全(特に左室駆出率が低下したHFrEF)に対して、
・息切れ・むくみなどの症状を楽にする
・寿命を延ばす・再入院を減らすことが証明された薬を組み合わせる
この二つをセットで考えることが推奨されています。
症状を取る薬と、「命に関わる部分」を守る薬
心不全の薬には、大きく分けて次の2つの役割があります。
- 症状を楽にする薬
利尿薬などが代表です。余分な水分を尿として出し、むくみや息切れを改善します。
- 寿命や再入院リスクに関わる薬
心臓や血管、ホルモン、腎臓の働きに作用して、病気の進行をできるだけ遅らせる薬です。心臓を休ませてあげながら、労わってあげるイメージの薬です。
後者の中心となる4種類が、いわゆる「ファンタスティック4」です。
「ファンタスティック4」って?診察室ではこう説明しています
なぜ4種類も必要なの?
心不全 ファンタスティック4(ファンタスティックフォー)とは、
・ARNI(エンレストなど)
・β遮断薬
・MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
・SGLT2阻害薬
という4つの薬のグループのことを指します。
国内外の心不全ガイドラインでは、特にHFrEFというタイプの心不全で、これら4種類をできるだけ早期からバランスよく導入することが標準治療として位置づけられています。
診察室ではよく、次のようにお話しします。
「心不全は、ひとつの薬で“劇的に良くする”というより、4つの薬がそれぞれ違う役割を持っていて、多方向から心臓を守ってくれるチームというイメージです。」と説明します。
ここからは、心不全の様々な種類の薬の中でも大切なこの4つを、「専門用語をできるだけ減らして」順番にみていきます。

4つの薬をイメージで理解する:効果とよくある心配ごと
1)ARNI(エンレスト):心臓のポンプ機能を改善し、水分量を減らして心臓を楽にする効果
ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)は、エンレストというお薬で知られています。
ざっくり言うと、
・固くなったホースの水圧を少し下げてあげる
・心臓をぎゅうぎゅう締めつけているホルモンのバランスを整える
ことで、心臓が血液を送り出しやすい環境を作る薬です。
従来のACE阻害薬やARBよりも、心不全の悪化や再入院を減らす効果が高いことが、海外の大規模研究で示されています。
よくある心配と副作用
・血圧が下がりすぎてフラつかないか
・腎臓に負担はかからないか
・カリウムの値が上がらないか
これらを確認するため、心不全の新しい薬であるARNIを始めた直後は、血圧と血液検査を少しこまめに行います。当院では普段の血圧を参考にし、低い場合はごく少量から導入します。心不全に対するエンレストの導入なら当院にお任せください。
2)β遮断薬:走り続けている心臓にブレーキをかけて労わってあげる薬
心不全になると、体は「もっと頑張れ!」と交感神経を活性化させ、心臓を走らせ続けるホルモン(アドレナリンなど)を出し続けます。この状態が続くと心臓は「リモデリング」といって心筋肥大や心室拡大が起こり心不全を悪化させてしまいます。
β遮断薬 心不全治療で用いられる薬は、この「頑張りすぎ」をそっと抑えて、
・心拍数をゆっくりにして心臓を休ませる
・心臓がだんだんと変形していく心筋の「リモデリング」を抑える
役割を担っています。
外来でよく出るご質問
「飲み始めてから、少しだるくなった気がします」
β遮断薬は、ごく少量からゆっくり増やすことが大切です。飲み始めの数週間や増量をした際には、体が“慣れるまで、だるさや倦怠感を感じる方もいます。
「つらい」「日常生活に支障がある」と感じる場合は、自己判断で中止せず、量の調整を一緒に考えていきます。心不全を患っている人は少量でもβ遮断薬を内服したほうが良いと報告されており、当院は患者さんそれぞれに合った用量のβ遮断薬の調整を得意としています。
3)MRA:塩分と水分の「たまりすぎ」を抑える薬
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)は、アルドステロンというホルモンの働きを抑える薬です。
イメージとしては、
・からだに塩分と水分をため込もうとする力を、少し弱める
・心臓や血管、腎臓が固くなって機能が落ちていくことを、ゆっくり防いであげる
という働きをします。
気をつけたいポイント
- 腎機能が悪い方では、カリウムが上がりやすい
- スピロノラクトンでは、男性で乳房の張りや痛みが出ることがある
このため、定期的な血液検査で腎機能・電解質を確認しながら、MRAの効果と副作用のバランスを見ていきます。
4)SGLT2阻害薬:おしっこから余分な糖と水を「少しずつ」流す薬
SGLT2阻害薬 心不全は、もともと糖尿病の薬として開発されましたが、心不全の患者さんで
・再入院を減らす
・腎臓の機能低下を遅らせる
といった効果が示され、「心不全の最新の薬物治療」の一つとして位置づけられています。
働き方を一言で言うと、「おしっこに少し糖分を混ぜて出すことで、水分も一緒に少しずつ減らしていく」薬です。利尿薬ほど強くはありませんが、心臓と腎臓の「負担を軽くする」方向にじわじわ効いてくるイメージです。
よくある心配と副作用
・のどの渇き・フラつき(脱水のサイン)
・排尿時の痛みや陰部のかゆみ(尿路・性器感染症)
発熱や強い痛みを伴う場合は早めの受診が必要です。体調不良時の飲み方(発熱・嘔吐・下痢のときなど)は、あらかじめ主治医と確認しておくと安心です。
高齢の方・持病が多い方の心不全治療で大切にしていること
心不全は、特に75歳以上の高齢の方に多い病気です。
外来や在宅療養の現場では、
・腎臓の機能が弱い
・血圧がもともと低め
・糖尿病や脳梗塞など、いくつもの病気を抱えている
・お薬の数がすでに多い
といった状況と向き合うことが少なくありません。
そのため、高齢者における心不全治療では、
・必ずしも若い人と同様の治療を行うのではなく、その人らしい生活を守ることを重視する
・少量からゆっくりと薬を増やし、ふらつき・転倒・食欲低下などが出ていないかをこまめに確認する
・ご本人だけでなく、ご家族とも相談しながら「どこまでの治療を望むか」を一緒に考える
といったことを大切にしています。
在宅療養・訪問診療でできる心不全 在宅療養 薬のケア
通院そのものが負担になってきた方では、訪問診療で心不全を見守るという選択肢もあります。
在宅・訪問診療では、たとえば次のようなことを行います。
・ご自宅での体重・血圧・むくみ・息切れの変化を一緒に確認
・お薬カレンダーや一包化を使って、飲み忘れ・飲み間違いを減らす工夫
・むくみや体重増加が少し早めに見つかった段階で、利尿薬を含めた薬物の調整を検討
こうした積み重ねは、心不全による再入院を減らす、薬の効果を生かしながら生活を守るうえでも大切だと考えられています。もちろん、すべての方に在宅医療が適切というわけではありませんが、「入退院をくり返さず、できるだけ自宅で過ごしたい」というお気持ちがある場合は、一度相談していただきたいです。
心不全の薬と上手に付き合うための3つのコツ
1)「体重」と「息切れ」を自分なりのバロメーターに
毎日同じ時間・同じ服装で体重を測り、ノートやスマホに記録しておくと、心不全の悪化サインに早く気づきやすくなります。
「ここ数日で2kg以上増えた」「いつもより階段で息切れする」といった変化があれば、早めに主治医に連絡しましょう。
2)お薬を続けるしくみを作る
・お薬カレンダー・ピルケースで、「飲んだ・飲んでいない」が見えるようにする
・スマホのアラームを「朝食後」「寝る前」などのタイミングにセットする
・ご家族と一緒に「自分のお薬リスト」を作り、病院や薬局に持参する
心不全の薬をいつまで続けるのか――という不安を抱えながら飲んでおられる方も多いと思います。
多くの場合、心不全の薬は長い付き合いになることが前提ですが、負担が大きいと続きません。飲みにくさや飲み忘れは、叱られることではなく、治療を一緒に調整していくための大切な情報ですので、遠慮なくお話しください。
3)「自己判断でやめない」ための相談先を決めておく
症状が落ち着いてくると、「そろそろ減らしてもいいのでは?」と思う方もいらっしゃいます。
しかし、ガイドラインでは、心不全で一度機能が落ちた心臓は、たとえ後から回復しても薬をやめると再悪化のリスクが高いことが示されており、自己判断での減量・中止は勧められていません。
「やめたいな」と思ったそのタイミングこそ、主治医とじっくり相談していただきたいポイントです。
「こんなときは一度ご相談ください」〜横浜市神奈川区周辺の方へ
この記事を読んでくださっている方の中には、
・心不全と診断され、お薬が一気に増えて戸惑っている
・心不全に対する新しい薬について説明を受けたが、家に帰ってから不安になってしまった
・高齢のご家族の心不全 高齢者 治療・在宅療養について、どう支えればよいか悩んでいる
・いま通っている病院での治療方針は尊重しつつ、もう少し詳しい説明や整理を聞いてみたい
といったお気持ちをお持ちの方もいらっしゃると思います。
当院は、横浜市神奈川区にある内科・循環器内科のクリニックとして、心不全の外来治療に加え、在宅・訪問診療にも対応しています。
現在の心不全の薬の種類や量がどのような意味を持っているのかを、一緒に整理しながら、
・どこまで「ファンタスティック4」をそろえるべきか
・高齢の方や持病の多い方では、どのようなペースで心不全 薬物治療を進めるのか
・ご自宅での生活を大切にしながら、再入院を防ぐにはどうすればよいか
といった点を、患者さん・ご家族と対話しながら決めていくことを大切にしています。
この記事の内容は、あくまで一般的な心不全治療の概要です。
心臓の状態、他にもお持ちの病気などによって「その人にとって適切な心不全治療」は大きく変わってきます。「自分や家族の場合はどうなのか」ということを具体的に知りたいとき、自己判断で薬を変えたり減らしたりする前に、どうぞお気軽にご相談ください。
当院ホームページの「診療案内」「訪問診療」「医師紹介」のページも合わせてご覧いただくと、当院でお手伝いできることをよりイメージしていただけると思います。
参考文献
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- Kato T, et al. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025.
- McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021;42(36):3599-3726.
- Bauersachs J. Heart failure drug treatment: The fantastic four. Eur Heart J. 2021;42(6):681-683.
- Docherty KF, Bayes-Genis A, Butler J, et al. The four pillars of HFrEF therapy: Is it time to treat heart failure regardless of ejection fraction? Eur Heart J Suppl. 2022;24(Suppl L):L10-L19.
- Ruffino E, et al. Four aces of heart failure therapy: systematic review of ARNI, β-blockers, MRAs and SGLT2 inhibitors. CardioPlus. 2022;7(3):171-178.
📞 電話:045-755-3039
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🏥 診療科:内科、循環器内科
🔷 日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器内科専門医
📍 Myクリニック本多内科医院(横浜市神奈川区反町4丁目27-1)
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ワクチンの予約に使用できる他、今後多方面での展開を考えております。
監修: Myクリニック本多内科医院 院長 本多洋介


