脂質異常症(高脂血症)とは
脂質異常症は、LDLコレステロールや中性脂肪が高い、あるいはHDLコレステロールが低い状態が続くことで、血管にストレスがかかり、動脈硬化やプラークが形成・進展する病態です。原因には、食習慣・運動不足・喫煙・過度の飲酒・肥満などの生活習慣に加え、家族性高コレステロール血症など遺伝的な要因も含まれます。高脂血状態を放置すると、血管が傷ついたり詰まりやすくなり、心筋梗塞や狭心症、脳卒中、下肢動脈疾患などの動脈硬化に関連する重篤な合併症を引き起こします。特に中性脂肪が著しく高い場合は急性膵炎の危険もあります。
自覚症状に乏しい一方で、日本でも有病率は高く、成人の2~3割が「脂質異常症が疑われる」と報告されています。重い病気を引き起こさないためにも健診での早期発見と、食事・運動療法や必要に応じた薬物療法により適正な脂質管理を行うことが重要です。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症はかつて「高脂血症」と呼ばれていましたが、「特定の脂質が低くても高脂血症と診断される」ため、「数値が低いのに高脂血症?」という混乱を招くことが多くありました。そのため、現在ではガイドラインの改定により、高脂血症は脂質異常症へと診断名が変わっています。
家族性高コレステロール血症について
家族性高コレステロール血症は、若い時からLDLコレステロールが高くなり、早期から動脈硬化が進んで、血管が細くなったり詰まったりする病気です。特に心臓の血管(冠動脈)に影響が大きいと言われており、20代や30代で心筋梗塞や狭心症になる方もいらっしゃいます。300人に1人程度いると言われている比較的頻度の高い遺伝性疾患です。
日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインによれば、家族性高コレステロール血症の診断基準として、
①未治療時のLDLコレステロールが180㎎/dl以上
②腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
③家族性コレステロール血症あるいは早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満で発症)の家族歴(父母、兄弟姉妹、子どもの関係にある人)
のうち2項目が該当し、かつ続発性高脂血症が除外されれば、家族性高コレステロール血症と診断されます。

家族性高コレステロール血症は動脈硬化性疾患のハイリスク病態であり、LDL コレステロール値に応じて、早期からの治療開始が推奨されています。
また、動脈硬化がどの程度進行しているか調べることにより、合併症の発症を避けることもできます。頸動脈エコー検査では血管壁の厚さを測ることにより動脈硬化の重症度を判定し、ABI検査では下肢の血管の動脈硬化や血管年齢を評価します。心臓の血管が細くなっている可能性がある場合には、心臓超音波検査を行い、運動負荷心電図検査や、運動負荷心筋シンチグラフィー、心臓のCT、冠動脈造影などの検査を行います。
当院では循環器内科専門医として脂質異常症の管理を行うとともに、動脈硬化疾患の早期発見・管理にも力を入れています。動脈硬化が心配な方、現状の動脈硬化の程度を把握したい方は一度ご相談ください。
脂質異常症の治療について
脂質異常症の基本的な治療は、食事療法や運動療法を始めとした生活習慣の改善です。特にLDLコレステロールが高い方は、脂ものを控えて、食物繊維の多い大豆や野菜を多くする食生活を心がけていきましょう。
また、効果が不十分な場合や心血管リスクが高い方には、薬物療法も行います。

LDLコレステロール値を下げる代表的なお薬
①HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン):肝臓でのコレステロール合成を抑えてLDLを減少させます。
②小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ):小腸でのLDLコレステロールの吸収を抑えます。
③PCSK9阻害薬(エボロクマブ 商品名:レパーサ):肝臓にあるLDL受容体の分解を抑制し、血中のLDLコレステロールの取り込みが増えることでLDLコレステロール値が低下します
トリグリセライド値を主に下げるお薬
①フィブラート系薬;中性脂肪の合成や分解に関与しているタンパク質を活性化させて中性脂肪を低下させます。
②ニコチン酸系薬;末梢脂肪組織での脂肪分解を抑制します。
③多価不飽和脂肪酸(EPA製剤、オメガ-3脂肪酸エチル);肝臓での中性脂肪の合成を抑制します。
脂質異常症の治療目標はその患者さんの背景や持病によって異なります。例えば、心筋梗塞や脳梗塞の既往があり、動脈硬化のハイリスクと判断される場合にはLDLが70mg/dl未満になることを目指します。
| 治療方針の原則 | 管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dl) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| LDL-C | Non-HDL-C | TG | HDL-C | ||
| 一次予防 まず生活習慣の改善、その後薬物療法を考慮する |
低リスク | <160 | <190 | <150(空腹時) <175(随時) |
≧40 |
| 中リスク | <140 | <170 | |||
| 高リスク | <120 <100(ハイリスク) |
<150 <130(ハイリスク) |
|||
| 二次予防 生活習慣の是正と共に薬物治療を考慮 |
冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往 | <100 <70(ハイリスク) |
<130 <100(ハイリスク) |
||
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
脂質異常症に関するよくある質問Q&A
Q.自覚症状はありますか?どんなサインに注意すべき?
A.多くは無症状です。健診の「LDL高値」「中性脂肪高値」で見つかります。胸の痛み、歩行時の足の痛み、めまい、痺れ、ろれつが回らない、などは重い動脈硬化性疾患を合併しているサインである可能性がありますので、すぐに医療機関に受診しましょう。
Q.健診で「LDL高め」と言われました。再検査は必要?
A.はい、再検査をおススメします。再検査を行い、やはりLDLが高いようであれば、動脈硬化のリスク(年齢、家族歴、喫煙、糖尿病・高血圧の有無など)を踏まえて目標値を確認します。
Q.LDLが高いけど、HDLも高いから大丈夫?LDL/HDL比って?
A.HDLが高くても、LDLが高ければ大丈夫ではありません。動脈硬化のリスク評価はLDLの管理が最優先です。LDL-C/HDL-C比の管理目標値は、将来の冠動脈疾患の発症を予防する場合(一次予防)では2.0以下、冠動脈疾患の既往がある場合(二次予防)では1.5以下が推奨されていますが、そもそもLDLが高ければ治療の対象となります。
Q.薬を飲んでいても中性脂肪が高いです。中性脂肪を下げる食事のコツは?
A.「適量な主食」「甘い飲料・アルコールを控える」「夜遅い食事を避ける」などが重要です。特に清涼飲料・果汁、ビール・日本酒などの糖質は中性脂肪を上げやすいです。魚・大豆・食物繊維の量を増やすのが良いでしょう。
Q.お酒はどこまでOK?
A.量が増えるほど中性脂肪が上がりやすく、肝臓にも負担がかかります。休肝日を作り、飲む場合にも蒸留酒を少量・薄めて飲むなどの工夫をして、夜遅くに飲むことは避けましょう。
Q.いつ薬が必要になりますか?やめられますか?
A.生活習慣の改善を行っても目標値に届かない場合、または動脈硬化疾患のリスクが高い場合に薬を併用します。薬を内服しながら、生活習慣の改善を計測していけば、数値とリスクに応じて薬の減量・中止が可能になることまおります。医師の指示なしに自己判断での中断はやめましょう
Q.スタチンって色々な話を聞くけど飲んでも大丈夫ですか?
A.どんな薬にも副作用が起こりうるように、スタチンにも筋肉痛や肝機能異常などの副作用があります。しかし、米国のガイドラインでも動脈硬化のリスクが高い人にはスタチンの内服が推奨されており、LDLが高いまま放っておくほうがリスクが高いとされています。スタチンで副作用が出てしまい、スタチンの内服継続が難しい”スタチン不耐”という状態の方もいらっしゃいますが、その場合には他の種類のスタチンを試す、PCSK9阻害薬を使うなどの選択肢がありますので、医師に相談しましょう
Q.更年期とコレステロールは関係ありますか?
A.閉経後はLDLが上がりやすくなります。食事・運動に加えて、必要に応じて薬物療法でしっかり管理しましょう。
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