「心不全の薬、本当に全部必要なの?」と感じている方へ
心不全と診断されると、ある日を境にお薬の数が一気に増えることがあります。診察室でも、「この薬は全部必要なのですか」「ファンタスティック4という言葉を見たけれど、よく分かりません」というご相談をよくいただきます。
この記事では、心不全の治療のうち、薬物治療、とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬という4つの柱について説明します。心不全そのものの原因や症状、検査の詳しい内容は、関連する疾患・症状・検査の案内もあわせてご覧ください。
心不全の治療を考える前に、まず知っておきたい症状
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出しにくくなった状態です。心筋梗塞、長年の高血圧、弁膜症、不整脈、心房細動など、原因は一つではありません。
薬物治療を続ける目的は、いまの症状を楽にするだけでなく、悪化や再入院を防ぐことにあります。
外来では、次のような変化をきっかけに心不全が見つかることがあります。
- 以前は平気だった坂道や階段で、最近すぐ息が上がる
- 夕方になると足首がむくみ、靴下の跡がくっきりつく
- 数日のうちに体重が2〜3kg増えた
- 横になると息苦しく、枕を高くしないと眠れない
- 夜中に苦しくて目が覚め、座ると少し楽になる
こうした症状がある方は、息切れ・息苦しい、足のむくみ、動悸・脈が飛ぶの案内も参考になります。
診断のために行う主な検査
心不全が疑われたときには、複数の検査を組み合わせて状態を確認します。
- 心電図検査:脈の乱れ、心筋梗塞の痕跡、心臓への負担を調べます。
- レントゲン検査:心臓の大きさ、肺うっ血、胸水の有無を確認します。
- 心臓超音波検査(心エコー):心臓の動き、左室駆出率、弁の状態を評価します。
- 血液検査:BNP/NT-proBNP、腎機能、電解質などを確認します。
ホルター心電図検査は、動悸や脈の乱れを伴う場合に役立ちます。動脈硬化の評価として、必要に応じて頸動脈超音波検査(頚動脈エコー)やABI検査を組み合わせることもあります。
その場しのぎではなく、長く元気に暮らすための薬物治療へ
以前の心不全治療では、利尿薬で余分な水分を抜き、息切れやむくみを軽くする治療が中心でした。もちろん、利尿薬は今でも大切です。ただ、症状を抑えるだけでは、再入院や生命予後の改善が十分ではないことが分かってきました。
現在の心不全治療では、症状を楽にする薬と、心臓・血管・腎臓を守り、悪化を防ぐ薬を組み合わせます。後者の中心となる4種類が、いわゆるファンタスティック4です。
- 症状を楽にする薬:利尿薬など。むくみや息切れの軽減を目的に使います。
- 悪化・再入院を防ぐ薬:ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬など。心臓を長期的に守る目的で使います。
心不全の背景には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病が関係していることもあります。心不全だけを見るのではなく、生活習慣病や腎機能も含めて治療を考えることが大切です。
心不全治療の「ファンタスティック4」とは
ファンタスティック4とは、心不全、とくに左室駆出率が低下したタイプの心不全で重要とされる4つの薬のグループを指します。
- ARNI(エンレストなど)
- β遮断薬
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
- SGLT2阻害薬
診察室では、「ひとつの薬で一気に治す」というより、4つの薬が違う方向から心臓を守るチームだとお話ししています。血圧、脈拍、腎機能、カリウム値、脱水の有無を見ながら、その方に合う量を探していきます。
4つの薬の役割と、よくある心配ごと
1)ARNI:心臓と血管への負担を減らす薬
ARNIは、心臓を締めつけるホルモンの働きを抑えつつ、心臓を守る方向のホルモンを生かす薬です。血管の圧を少し下げ、心臓が血液を送り出しやすい環境を作ります。
導入時には、血圧低下によるふらつき、腎機能、カリウム値を確認します。もともと血圧が低い方や高齢の方では、少量から始めることがあります。
2)β遮断薬:頑張り続ける心臓を休ませる薬
心不全では、体が心臓に「もっと頑張れ」と指令を出し続け、交感神経が強く働きます。β遮断薬は、その過剰な刺激を和らげ、心拍数を落ち着かせ、心臓を休ませる薬です。
飲み始めにだるさを感じる方もいます。つらい場合は自己判断で中止せず、量や飲むタイミングを相談してください。
3)MRA:塩分と水分のたまりすぎを抑える薬
MRAは、アルドステロンというホルモンの働きを抑える薬です。体に塩分や水分をため込む力を弱め、心臓や血管、腎臓への負担を減らします。
腎機能が低下している方ではカリウムが上がりやすくなるため、血液検査で腎機能と電解質を確認しながら使います。
4)SGLT2阻害薬:心臓と腎臓の負担を軽くする薬
SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の薬として使われてきましたが、心不全や腎機能の悪化を抑える効果も示されています。尿から余分な糖と水分を少しずつ出し、心臓と腎臓の負担を軽くします。
のどの渇き、ふらつき、尿路感染症・性器感染症に注意が必要です。発熱、嘔吐、下痢など体調が悪いときの飲み方は、あらかじめ主治医と相談しておくと安心です。
高齢の方・持病が多い方の心不全治療で大切なこと
心不全は75歳以上の方に多く、腎機能の低下、低血圧、糖尿病、心房細動、脳梗塞の既往などをあわせ持つ方も少なくありません。
高齢の方では、若い方と同じ量をそのまま目指すよりも、少量から慎重に始め、ふらつき、転倒、食欲低下、脱水が出ていないかを確認しながら進めることが大切です。
薬の数が多くて不安なときは、どの薬が症状を楽にする薬で、どの薬が再入院予防に関わる薬なのかを知るだけでも、治療を続けやすくなります。
在宅療養・訪問診療で行う心不全の薬の管理
通院が負担になってきた方では、訪問診療で心不全を見守る選択肢もあります。
- 体重、血圧、むくみ、息切れの変化を確認する
- お薬カレンダーや一包化で、飲み忘れ・飲み間違いを減らす
- むくみや体重増加が早めに見つかった段階で、利尿薬などの調整を検討する
- 息切れ、足のむくみ、動悸などの変化を、ご家族や訪問看護と共有する
入退院をくり返さず、できるだけ自宅で過ごしたいというお気持ちがある場合は、外来で一度ご相談ください。
心不全の薬と上手に付き合うための3つのコツ
1)体重と息切れを毎日の目安にする
毎日同じ時間・同じ条件で体重を測ると、体に水分がたまってきた変化に早く気づきやすくなります。「数日で2kg以上増えた」「いつもより階段で息切れする」などがあれば、早めに相談してください。
2)薬を続ける仕組みを作る
お薬カレンダー、ピルケース、スマホのアラームなどを使い、「飲んだかどうか」が見える工夫をすると続けやすくなります。飲みにくさや飲み忘れは、治療を調整するための大切な情報です。
3)自己判断で中止しない
症状が落ち着くと、薬を減らしたくなることがあります。ただし、心不全では、いったん良くなっても薬を急にやめることで再び悪化する場合があります。減量や中止を考えるときこそ、主治医と相談してください。
このようなときは一度ご相談ください
- 心不全と診断され、薬が増えて戸惑っている
- ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬について、もう少し説明を聞きたい
- 高齢のご家族の心不全治療や在宅療養について悩んでいる
- 息切れ、むくみ、動悸があり、心不全が心配になっている
- 現在の治療方針は尊重しつつ、外来で薬の意味を確認したい
本多内科医院では、一般内科と循環器内科の立場から、心不全の外来治療と在宅療養のご相談に対応しています。
心臓の状態、腎機能、血圧、他にお持ちの病気によって、適切な心不全治療は変わります。自己判断で薬を変える前に、まずはご相談ください。
参考文献
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- Kato T, et al. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025.
- McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021;42(36):3599-3726.
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- Docherty KF, Bayes-Genis A, Butler J, et al. The four pillars of HFrEF therapy: Is it time to treat heart failure regardless of ejection fraction? Eur Heart J Suppl. 2022;24(Suppl L):L10-L19.
- Ruffino E, et al. Four aces of heart failure therapy: systematic review of ARNI, β-blockers, MRAs and SGLT2 inhibitors. CardioPlus. 2022;7(3):171-178.
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🏥 診療科:内科、循環器内科
🔷 日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器内科専門医
📍 Myクリニック本多内科医院(横浜市神奈川区反町4丁目27-1)
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監修: Myクリニック本多内科医院 院長 本多洋介

